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落ち着いた名作宝塚歌劇団宙組『クラシコ・イタリアーノ/NICE GUY!!』

クラシコ・イタリアーノ
クラシコ・イタリアーノポスター

東京宝塚劇場で大空祐飛(おおぞら ゆうひ)・野々すみ花(のの すみか)主演による、宝塚歌劇団宙組の『クラシコ・イタリアーノ/NICE GUY!!』を観劇しました。

クラシコ・イタリアーノ

植田景子作・演出によるオリジナル作品ですが、このところトップコンビ以外に活躍のなかった作品が続いていたのと、植田作品が男役中心で娘役の活躍の場が少ないという評価が多かったので心配していました(確かに娘役の使い方は勿体無い気がしました...)が、そんなことは杞憂に終わる、素晴らしい作品でした。

戦後の経済復興のローマで、かつては、手縫いのナポリ仕立て(メイド・イン・イタリー)のスーツを金持ちだけではなく多くの人に広めるという夢をいだき「グランチェロ」ブランドを興し、現在はファッション界に君臨するようになったカリスマ、サルヴァトーレ・フェリ(大空 祐飛)。

そんな彼が、アメリカ進出目前のサルヴァトーレを取材するためアメリカから訪れたTVディレクターのレナード・デルーカ(凰稀 かなめ)や、新人レポーターのミーナ・プッティ(野々 すみ花)らに出会ううちに、本来の彼の夢を取り戻していくストーリー。

とても地味な展開で、ギミックもない演出でしたが、座付作家らしい丁寧な作りこみで、出演者一人一人が輝いていました。

一緒に「グランチェロ」を作ってきたものの、今のやり方に納得がいかず分かれる職人マリオ・ブラージ(北翔 海莉)、かつての師匠であり、袂を分かったアレッサンドロ・ファビーノ(汝鳥 伶)との和解(といっても、口には出さなくてもお互いの本心はわかっていたと思われる)のシーンは、人情味あふれる芝居で涙を誘います。北翔さんは持ち味の活かせるいい役に、やっと出会えました。

レナードが取材してきたフィルムを上映しサルバトーレに見せる場面も、映像ではなくセリを効果的に使って実際に演じるという演出も、奥行きを持たせる心憎いものでした。

アメリカ進出が決まりかけた時に、アメリカ側はて手縫いをやめてミシンによる大量生産を契約の条件に付きつけます。アメリカを大量生産・大量消費の象徴として、ナポリ仕立てを現代の私たちが失ったものの象徴として、現代社会に対する警鐘とも取れる場面もありましたが、素直に人情劇として私は楽しみました。

特筆すべきは、大空・野々のトップコンビ。

野々さんは何をやってもドジで間抜けな田舎娘を見事に演じ切りました。特にサルバトーレの前でついついプルチネルラ(伝統的な風刺劇の道化師)をやってしまうシーンは鳥肌が立ちました。

その芝居ぶりは、宝塚的な範疇をはるかに超えています。下手をすれば彼女の一人芝居になりかねませんが、そこに、あらゆる無駄をそぎ落とした究極のクールな男役である大空さんのオーラがおおいかぶさると、舞台に魔法がかかったように、芝居が落ち着きます。

これも功罪あって、前作のような作品だと、完全にトップコンビの二人以外が完全に霞んでしまうのですが、今回はうまく作りこまれていました。

NICE GUY!!

藤井大介作・演出の楽しいショーでした。

大空さんは正直言って、歌も踊りもそんなに上手くはないと思うのですが、ものすごいオーラを発して舞台を支配します。不思議なトップスターです。

それから、美穂圭子さんの歌は本当に素晴らしい。

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