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壮一帆・愛加あゆの熱演、宝塚雪組『心中・恋の大和路』

恋の大和路公演ポスター
恋の大和路公演ポスター

宝塚歌劇雪組『心中・恋の大和路』日本青年館公演を観劇しました。

過去には、そうそうたるメンバーで上演された、近松門左衛門作の人形浄瑠璃「冥土の飛脚」を原作にした和物ミュージカル作品で、歌舞伎や映画化もされた名作です。

涙が止まりませんでした。演目そのものに泣けたのは『ファントム』以来でした。

作品について

あらすじを乱暴に紹介すると、心中ものというより、愚かな男女(飛脚問屋の旦那、亀屋忠兵衛:壮一帆、新町の遊女、梅川:愛加あゆ)が身分違いの恋に陥り、甲斐性もないのに身請けの金三百両を用意するためお客から預かった金に手を付けるという商人にあるまじき罪を犯し、駆け落ちならぬ男の実家に逃げ帰る途中で雪の山中で死んでしまうというものです。

主人公はかっこよくもなければ聡明でもない、その愚かさがただただ哀れでおかしみがあり、その等身大の人間性の愚かさと哀れさにただただ涙するほかなない作品です。
きっぱりとした決意があって逃げたのではないことが、「忠兵衛はどこへ行った?」という飛脚問屋の旦那衆の問いに、店の女将が「大和の実家でもいったんでしょう」と答えるくだりや、逃げ延びる途中で忠兵衛が「こんなところまで手が回っているとは!」と驚いている様子から窺えます。

で、この忠兵衛、どうしようもない男かというとそうでもなくて、手代の与平(月城かなと)が憧れを抱くかもん太夫(大胡せしる)の身請けが決まったと知った忠兵衛が、引き合わせる場を用意してやるなど、人の心を理解できる優しい器量をもっていることがわかりますし、そんな男でなければ梅川も惚れることはなかったかもしれません。

登場人物について

主人公亀屋忠兵衛を演じるのは、次回作で退団が決まった壮一帆さん。ファンからえりたんの愛称で親しまれているトップスターで、へたれの忠兵衛をまさに壮さんの持ち味を生かした「えりたんクオリティー」で演じていました。

演技、歌、踊りのどれをとっても華やかさや力強さがありますし、憎めない愛嬌のあるところも持ち味です。決してもともとは技術的に器用なタイプではないのでしょうが長い男役キャリアで培った男役像がファンの心をとらえて離しません。やや力技でねじ伏せてしまうところもありますが、そこがまた魅力であります。

一幕目のどこにでも居そうな人情味あふれる愛すべきへたれぶリが見事で、ここがしっかりしているので、二幕目の哀れさ、悲しみ、おかしさが一層強く感じられました。

槌屋の遊女梅川を演じた愛加あゆ(富山市出身、姉は星組娘役トップの夢咲ねねさん)さんも見事な演技。変に策を弄ずることなく、ただただ純真な可愛らしい梅川像を貫くことで、一層強く人間の愚かさやおかしみが浮かび上がりました。そのたおやかな表情は、かつて雪組娘役トップをつとめた白羽ゆりさんを思い起こしました。

二幕目の忠兵衛の実父孫右衛門(汝鳥伶)との対面場面は、名優汝鳥伶との一世一代の名演技で、初めて顔を合わせるのにお互いに名乗らず他人のふりをしてお互いを思いやる名場面。愛加さんと汝鳥さんの演技力の真剣勝負に涙しました。

また、愛加さんは演技だけではなく、歌声も現娘役トップの中ではもっとも娘役らしい歌声で魅了してくれます。壮さんと同じく次回作で退団するのが本当に惜しいです。

米問屋の丹波屋八右衛門を演じた未涼亜希さんの抑えた脇役ぶりも見事。ラストで忠兵衛と梅川が大和路の山中をさまよいながら息絶えてゆく場面の独唱に会場中ですすり声が。もちろん、壮さんと愛加さんの息絶えてゆくその瞬間まで指先まで神経の行き届いた美しい演技が素晴らしかったのですが、未涼さんの歌声がなければ魅力は半減したことでしょう。

さらに、手代の与平を演じた月城かなとさんは、歌もお芝居も本当に素晴らしい。星組の礼真琴、花組の柚香光といった有望若手がひしめく95期生とのことですが、華もあり、これから楽しみな男役です。

雪組は昔から和物の雪組、芝居の雪組といわれてきたそうですが、若手も含めここまで実力者がいるとは知りませんでした。その評判通りの素晴らしい舞台でした。

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