活動レポート

寄稿文「富山市政の行方」より

この文章は平成15年11月28日発行の(社)富山県宅地建物取引業協会富山支部宅建富山支部報21号へ寄稿した文章です。

はじめに

 この号が会員の皆さんの眼に止まっている頃には、総選挙の結果も出ていることでしょう。与野党とも政権公約(マニフェスト)を前面に押し立てての選挙戦を経た新政権は、どのような未来を私たちに提供するのか注目していかなければいけません。その政権公約の枕詞になっているのが、「少子高齢化社会の進展」「行財政問題の克服」「デフレからの脱却」「外交・防衛問題」などでしょうか。特にこの中の、「少子高齢化社会の進展」「行財政問題の克服」は、富山市をはじめ地方の抱えるさまざまな問題点と重なります。

 森市長は「財政黄色宣言」「財政赤色宣言」そして「富山市財政危機回避緊急プログラム」と立て続けに私たち市民が驚くような発表をされましたが、この意味を考え直し、今後の市政の行方と、市町村合併や新幹線開業による富山の未来について拙文ではありますが、少々誌面を拝借したいと思います。

富山市財政危機回避緊急プログラム

(1) 財政危機回避緊急プログラムとは?

森市長は「富山市財政危機回避緊急プログラム」を発表しました。この中には、福祉分野とりわけ医療費の現物給付の見直し(注1)等を含む、聖域なき行財政構造の改革がうたわれていたために、9月市議会でも大変な議論がありました。

注1) 現物給付の見直しとは?
幼児、ひとり親家庭等、妊産婦、重度心身障害者、65歳から69歳の軽度障害者の医療費を窓口で払わずに済んでいた(つまり医療機関が市に請求する)医療費を、一度患者さんが窓口で立て替えて支払い、後で市に手続きをして払い戻しをうけるという仕組みに改めること。本来国は後者の制度を前提として補助金を出しているが、富山市では前者の方法を取っているため、約1億2千万円の補助金を、ペナルティとして減額されている。

プログラムの具体的な中身については、

  1. 内部事務管理の視点からの見直し
  2. 公共施設・都市基盤整備事業の見直し
  3. 市民サービスの再構築

が挙げられ、その実施に向けて、

  1. 平成16年度予算に対する枠配分方式の導入
  2. 行政評価手法の向上

をうたっています。

では、いま何故このようなプログラムを発表する必要があったのかについて考えてみたいと思います。

(2) 背景その1・・・人口減少と少子高齢化社会の進展
図1.将来推計人口
図1.将来推計人口
図2.富山県の将来推計人口
図2.富山県の将来推計人口

2010年をピークとして日本の人口が(富山県は既に人口減少県ですが)いよいよ減少を始めます。特にその中身を見ると65歳以上の高齢者が増えていきます。社会全体から見れば、社会コストを負担する人々が減少し、社会サービスを受ける人々が増加するということです。つまり働いて税金を納める人々が減少し、年金・介護・福祉にかかる支出は確実に増えていくということです。

図1は将来推計人口(平成14年3月推計 出典:国立社会保障・人口問題研究所)ですが、2000年の生産年齢人口は約8638万人、老年人口は2,204万人。2015年というそう遠くない将来には生産年齢人口は約7,729万人、老年人口は約3,277万人。生産年齢人口が約1,000万人減少し、逆に老年人口は約1,000万人増加することになります。東京都の全人口に近い働き盛りの方が減り、高齢者の方が増えるわけです。

同様のことは富山県でも言えます。図2の富山県の将来推計人口をご覧いただくとわかりますが、2000年の生産年齢人口は約73万人、老年人口は23万人。2015年には生産年齢人口は約62万人、老年人口は約31万人。生産年齢人口は約9万人減少し、逆に老年人口は約8万人増加することになります。富山市でも同様の傾向が見て取れます。年金問題を語るときに言われる「4人で1人を支える社会が、近い将来2人で1人を支える社会になる」と言われるのは、まさにこのことなのです。

(3)背景その2・・・社会構造の変化

文明の発達や家族制度や地域社会の崩壊などが引き起こす社会サービスに対するニーズの多様化が進んでいるのは皆さんご承知のとおりです。子育てを例に取れば、「これまでは家庭や地域で子育てを行ってきたが、核家族化や女性の社会進出などにより、これまでの子育て機能が保育所の延長保育や学童保育などに置き換わり、新たなニーズを作り出した。」と言えます。介護などでも同様のことが起きています。これらのニーズは今後も増えつづけ減ることはないでしょう。ニーズが増えるということは当然今まで使わなかったことに予算がさかれるということです。

(4) 背景その3・・・財政構造

税金を収める人が減ることとあわせて不況による税収の落ち込みも、十分すぎるほどご理解いただけるとおもいますが、一方で財政構造はとても硬直化がすすんでいるということもご理解いただきたいと思います。

収入が減るなかで、国民健康保険や介護保険などの福祉に関する予算は今後も増えつづけていくのは先にも述べた人口構成からもお分かりだと思います。どこかを削ってそれらの経費を工面しなければいけないのですが、人件費などの経常的な経費もよほど大胆なアウトソーシングや、職員給与の引き下げや市町村合併による特別職(首長、助役など)の削減や議員削減を除けば、退職者以上の新規採用をしないことで長期的に減らしていく以外にはありません。とすればその他の経費を大幅に削減していく以外には、財政を維持することはできません。しかも大切な預貯金である財政調整基金は平成11年から比べると今年度は半分の約88億円と大幅に減っています。貯金も徐々に食いつぶしてきています。

「福祉に使う予算は減らせない。人件費もすぐには減らせない。」なかなか妙案は出てきません。各分野で少しずつ工夫しながら節約しなければいけません。

福祉の分野では、比較的余裕のあるお年寄りに負担をおねがいしたり、これまで支給してきた各種の補助金が本当に福祉の面から必要なのかを見直したりすることが必要です。例えば私の父親は2級の身体障害者でタクシー券の交付を受けていますが、障害者用の部品をつけて自動車の運転をしていますし、定期的な通院も必要であれば家族が送迎できる状態にありますのでタクシー券を使うことはまれです。このことも見直しの対象となっています。

細かいことを挙げればきりがありませんが、今行っている事業がはたして時代のニーズにあっているか、均一なサービスにこだわるあまりサービスを受ける方に本当に役立っているのかなどを抜本的に見直さなければいけない時期に来ています。

(5)枠配分方式の導入と行政評価手法

これらを具体に実行するための手段のひとつが「枠配分方式」の導入です。

これまでは、各部局からの予算要望を財政当局が富山市の重点施策や総合基本計画などに基づき査定をして、積んだり崩したりしながら全体の予算を決めていました。それに対して枠配分方式とは、あらかじめ各部局に予算(政策的経費)を割り振っておいて、各部局が創意工夫をして予算内に収めることで、全体の予算を組み立てるというものです。各部局長の腕の見せ処ではありますが、市全体としての目指す富山市像が見えなくなるのではないかと危惧をしています。カッコつけて言えば、各部局が予算枠を守るためにテクニカルなことに走って、施策に対する理念がなくなることが心配です。また、これまで行政の全体像を見渡しながら予算編成にあたっていた財政当局の役割がどこかへ行ってしまうのではないかということも気がかりです。

もう一点気になるのが、予算と人員のバランスです。民間企業を例に取れば、バブル期に事業を拡大して失敗し生き残りをかけてなければいけない企業があるとします。この会社はもう一度基本に立ち返り、本業部門と研究開発部門に資源(ヒト・モノ・カネ)を投入し、不採算部門からは撤退し、海外事業部は縮小するということに決めました。こんなあたり前のことが役所では出来ない可能性があります。予算が減っても職員はそのままということです。

地方分権がすすめば、これまで国や県の方針に基づいてたんたんと執行していればよかった市町村の行政(全部が全部そうではありませんが)が、自ら理念に基づく施策を打ち出していかなければいけない時代がすぐそこまで来ているのです。各部局には単に予算枠を守ることにとらわれずに、しっかりとした理念が求められますし、カネという資源だけでなくヒトという資源も含めた。役所全体の組織のあり方も見直さなければなりません。そのためには行政評価手法の確立が求められます。検証無しにただ結果として予算に収まっていてもそれは本末転倒といえるでしょう。

市町村合併

(1)議員定数
合併協議会参加市町村の議員定数
合併協議会参加市町村の議員定数

新市(まだ合併そのものは最終決定していませんが)の名称が一般公募により「富山市」に決まりました。事務レベルでも具体的な内容がかなり煮詰まってきていますが、皆さんが関心を寄せる議会についてはまだ正式には手付かずのままです。

合併協議会で山田村の委員から「法定数で大選挙区」との意見が出されたり、大沢野町議会でも非公式ながら「特例は使わない」との方向で意見集約している旨が伝わってきています。富山市でも会派ごとに意見集約が始まっています。法定数46名以内で選挙をするのか、在任特例を使って126名の議員を残すのか、定数特例(法定数の2倍まで)で選挙をするのか。

基本的には特例法を使わずに大選挙区での選挙がベストだと思います。事実4月に誕生したばかりの「東かがわ市」では在任特例によって誕生した市議会が住民請求により解散させられ出直し選挙が行われるなど、議会に対する市民の見方は厳しくなりつつあります。また、大選挙区にすると小さな旧町村出身の議員が減り、地域住民の意見が反映されにくいとの指摘がありますが、以前視察した「ひたちなか市」は平成6年11月に企業城下町である12万都市の勝田市と水産都市である2万都市の那珂湊市が合併して出来たまちですが、議員の出身地域を比べると、おおよそ旧勝田市20人に対して旧那珂湊市が10人の割合であり、必ずしも人口比にはならなかったという例もあります。

これはすでに両地域の人的交流が相当あったことと、地域による政治に対する関心度が異なっていたことが理由としてあります。(富山でも1区、3区に比べ富山市は投票率が低い。また、富山市でも新興住宅地やマンションを抱える地域の投票率は低い傾向がある)また、ヨーロッパでは議員の数が多い自治体も結構ありますが、ちゃんと本業があって、限りなくボランテアに近い形で議員活動を行っているなど、議員や議会のしくみそのものが違います。これは歴史的背景などを踏まえて根をおろしている制度ですから議員の数の多い少ないだけを日本と比べて論じても意味がありません。

こと議員に関していうと市町村合併は、主に財政面から様々なご意見をいただきますが、本質的には「議会や議員のありかた」を問われるものです。「町内や地域のことは市会議員に、市のことは県会議員に、県のことは国会議員に、国のことはアメリカにまかせる」という言葉があります。悪い冗談であって欲しいのですが、地域住民の声を政治に活かすのは当然としても、「市会議員は市全体を、県会議員は県全体を、国会議員は国家を見渡すことが本来の責務であること」が忘れられているのではないかと多くの人々が感じていることの表れかもしれません。

議定数削減は、より専門的な議員が地域の垣根を乗り越えて活動するというしくみに再構築する機会であると捉えなければいけないと思います。

(2)合併特例債

「合併をすると合併特例債がもらえるから、財政がよくなる」という話を聞きますが、これは違います。

一般の市債に比べて有利な条件でお金が借りられると言うのは間違いありませんが、借金であって、ただでくれる地方交付税(実はこれも借金に依存している)と違います。あくまでも合併するためにどうしても必要な事業のために借りる。あるいは合併する新市の将来を見通して100年の計とも言うべき事業に使われるべきであって、合併に際してあれもこれもやってしまおうというのは大きな間違いであり、無駄なハコモノ建設に化ける可能性があります。総論賛成でも、各論に入ってからお金の分捕り合戦にならないようにしなければないりせん。

表2.合併特例債の試算
標準全体事業費 約 669.2億円 (合併から10か年度間の事業の合算額)
起債可能額 約 597.7億円 (標準全体事業費の95%)
普通交付税算入額 約 418.4億円 (起債可能額の70%)

表2は合併特例債を総務省のホームページで試算した結果ですが、合併後の市町村のまちづくりのための建設事業として合計約669.2億円の事業が行えることに対して、「95%の借金が出来ますよ。そのうち70%は後々交付税で面倒見てあげますよ。」ということです。逆にいうと、約669.2億円の事業が、約31.5億円の自己資金で出来ますが、残る借金は約597.7億円。このうち70%は国が面倒を見るといっても、そのもとになる交付税特別会計が借金で火の車になっているという事実を忘れてはいけません。

富山港線路面電車化と連続立体交差

電停に停まるLRT「MOMO(モモ)」
電停に停まるLRT「MOMO(モモ)」
岡山市内を走るLRT「MOMO(モモ)」
岡山市内を走るLRT「MOMO(モモ)」

以前新聞を飾ったヨーロッパ調の低床路面電車LRT(Light Rail Transit)の合成写真はあまりにも衝撃的でしたが、今年視察に行った岡山のLRTをご覧いただければもう少し現実味が沸くのではないかと思います。ちなみにMOMOは1編成だけの投入でしたが、利用客の減少傾向に歯止めがかかり若干増加しました。MOMO効果もありますが、新規車両導入にあわせた運行・サービスの見直しや、LRTに対する地道なPRや市民の世論形成があったことは言うまでもありません。

財政状況が厳しいという暗い話ばかりでしたが、最後に少しだけ夢のある話を書かせていただきました。

新幹線の事業費はおよそ770億円(交付税措置のある分16億円を除く市負担分は約26億円)、連続立体交差事業は約390億円(市負担分は4分の1)。これだけ巨額のお金がつぎ込まれる事業です。およそ10年後の新幹線開業をにらんだ民間企業による投資も始まっています。新しい路面電車以外にもいろいろ夢を描くことが大切です。引き締めるところは引き締めつつも夢を描き実現することを忘れずにいたいものです。

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